私の中の眠れるワタシ
「あら、そう。みたことあるの。でもね、これは自分でじゃなくて雅史さんがしたのよ。雅史さんは、私の彼氏だったから。」
さっき彼女は、雅史さんと呼ばれるその男性の事を、『母さんの男』だと言ったはずだ。
わけが解らず、沈黙し続ける私に、一人で話し続けた。
「雅史さんは、今二十五歳だけど、私を街で見かけて声をかけてくれたの。
初めの頃は、年もごまかして……大人のふりして、会ってた。」
そういいながら、痣に一つ一つ、触れていく。
「あるときね。どうしてもうちに来るって言い出して……それだけは、困るって言ったわ。でもとうとう、その日はやってくる。」
美月の涙が、彼女の頬を伝った。
「私たちは、もう、顔とか、性格とか……そんなうすっぺらな事じゃなくて。お互いの、肌が好きだったのよ。私は、初めての人だったけど、同時にこの人が最後でもいいって感じてた。
でも、雅史さんはあっけなく、私の部屋で、母さんに見つかるわ。」
−−私のうちだったら。
即座にその男は問い詰められ、家を追い出され、その後私は殴られ、なじられ……そんなところだろうか。
でも、彼女の家は、違ったということくらい、なんとなく先程からの流れで、いくら鈍い私でもわかる。