私の中の眠れるワタシ
カメレオン
……指が、震える。
やはりためらう。でも、ここまで来たのだ。聞いても聞かなくても、現実は、変わらない。
ボタンに軽く触れただけなのに、大袈裟な音でチャイムがなった。
その音に、ビクビクする自分が滑稽だった。
「……はい。」
その声を聞いただけでは、美月の母か美月かが判別できなかった。
私は丁寧に、
「遅くにすいません。美月さんの友達の、長崎といいます。美月さんは今、いらっしゃいますか?」
と尋ねると、
「あぁ、待ってもらえます?」
とがっかりしたように答え、美月ではない口調に気付く。
細く開いたドアの隙間から見える玄関先に、初めてみるような美しい女性が立っていた。
これが、美月のお母さん……。
道ですれ違ったら、絶対振り向いてしまうだろう。そのドアの隙間から、すごくいい香りがした。
薄い紫色のアイシャドーに、ツヤツヤの唇。肌は、シミ一つない、真っ白な、お餅みたいな肌。
髪を束ねて、高く結い上げていた。
そのきちんと準備された首から上にはそぐわない、胸の見えてしまいそうなガウン。
母というより、姉みたいだ……。
以前来た時に、美月が
「母は私を十七歳で産んだのよ。」
と、話してたことを、思い出す。
私は、みとれて立ち尽くした。