私の中の眠れるワタシ
「今、入浴中なの。玄関で座って待ってもらえます?」
私の背後の道に誰かを探しながらそう告げると、すぐに後ろに向いて部屋の奥に入っていってしまった。
明らかに恋人を待っている、そんな風情にドキドキした。
閉じてしまいそうなドアを、慌てて手で押さえる。
もし、閉じてしまったら、次はもう二度と開けてもらえない気がした。
「お邪魔……します。」
私は、柔らかい茶色の玄関マットに腰をおろした。
家の中は静かだった。
なんの音も聞こえてこない。
男がいないと、あのお母さんは、こんなにも静かにできるんだ。
……いや、違う。男がいるだけで、あんなに変われるんだ。人目もはばからず、あんな大きな音で愛し合う行為をする。
私は、さっきまで美月の事で頭がいっぱいだったのを忘れて今見た母親に、男性が感じるような興奮と同じようなものを感じている自分を思い、一人で顔を赤らめた。
去年は、ただ、恐かった。汚らわしいような、淫らなような。
でも、今。
耳だけじゃなくて、目と鼻と……いろんな器官で美月の母を知った。
そうしたら急に、私もあんな風になりたいと、憧れさえ感じる。
または、同じ女性としての、妬みというものだろうか。
我を忘れるくらい快楽に没頭したり、かと思えば、部屋の奥で物音一つ立てずに、静かに男を待つ。
なんだか、笑いたくなった。