私の中の眠れるワタシ
赤と青
「美月、今でもまだ雅史さんって人の事、好きなの?」
美月は、去年までは自分の物ではないと言っていた灰皿を、そばに引き寄せた。
黙ってその手元を見つめている私に、
「タバコ。雅史さんに教えてもらったの。悪い人だわね。今年になって、おいしいって初めて感じちゃった。
身体に悪くても、止められなくなるなんて、男と同じね。」
ドレッサーの引き出しに入っていた、赤っぽい箱とキレイな色のライターを出して、火をつけた。
「知らない。私、男の人もタバコもわからないから。」
大人ぶっているように見えて、初めて彼女を嫌悪した。
「雅史とは、もう二人では会っていないわ。
だって、彼は完全にあの女に所有されているもの。心も身体も、時間や自由さえね。
でもそれは彼が望んだ事でも、ある。
彼が与えて、あの女が受け取ったのよね。」
独り言のように言う彼女に、以前のような、狂気はなかった。