逢いたい時に貴方はいない
それからは何事もなく数日を過ごしていた……

忘れた頃に、以前店の前で倒れていた彼女が私の店に訪れた。


『先日はどうもありがとうございました。』
風が吹いたらとんでいってしまうのではないかと思うくらいに薄っぺらい その体を見た私は すぐに この間の彼女だとわかった。


「いえ、たまたま通りかかっただけなので、気にしないで下さい。それにしても、よくここがわかりましたね」
『はい…あれから何度かここら辺を探していて、お店の近所の方に聞きました。とっても綺麗な方が営んでいるお店だって有名なんですね。人に聞いたらすぐにわかりました。
もっと早くにお礼に来たかったのですが…私人と話すのが苦手で…思い切って知らない人に声をかけるのに今日までかかってしまいました』

(そこまで話せるなら充分な感じがするケド…)

なんて心の中でツッコミを入れてみた。


「わざわざありがとうございます」


綺麗な人だなんて
キャバ嬢の時には耳にタコができる程聞いていたし 嬉しくもなかったケド…

場所や人が違うと
何度も聞いている言葉でも嬉しいものである。

『素敵なお店ですね』
彼女は店を端から見渡した。

「ありがとうございます。良かったら手にとって好きなだけ見ていって下さいね」

『ありがとう』

マジマジと見ると
本当に 細いなぁー。
この人、ちゃんと食べてるのかな?……


『あ、申し遅れました私石原啓子といいます』

「あ…はい。」
(唐突に自己紹介されたから変な声が出ちゃったじゃない……)


私も自己紹介をした。
なんだか、こんな感じに自己紹介するのは初めてだったから…不思議な感覚だった。





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