逢いたい時に貴方はいない
声のした方を見ると、彼が立ち上がり こっちを見ていた。


私は黙って彼を見た。

『お前、こっち座んないんか?』

と、さっきの『おい』が まるで違う人が言ったかのような
穏やかな声で彼は言った。


さっきまで、彼の肩を拝借していた女は、
キョトンとしながら彼を見つめていた。
女の手は、彼の足にピッタリ触れていた。


「女の子、そっちにいるし、テーブルの感覚が狭くて、そっち行けないから、ここでいいの。」


私は笑顔で返してやった。


あくまでも、できる限りの平常心を装って。

その後、彼が
どんな表情をしたのか見もしないで
私は 又三人の相手を始めた。



腰に手を回そうとした部下くんの手は
すっかり お酒の方にのびていた。


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