逢いたい時に貴方はいない
『こっちこいよ』

「今?」

いつもの流れである。
いつも こうやって
分かりやすい誘いから
始まるのである。

『今来なかったら
明日くんのかぁ?』

冗談まじりに彼が言った。

「違うケド…」

私も ツラレテ笑った。

『俺ずっと待ってたんだぞ~。
いいのか~?
健康な男子をこんなに待たせて』

「何いっちゃってんだかっ」

嫌じゃないけど、
少し抵抗があった。


妊娠への不安。

術後の不安。

まだ何日か前の出来事なのに
余裕で誘う彼に抵抗すら感じた。

彼は
わからないのかもしれないけど…

通常一ヶ月は
行為をしないのが体のためなのに


本当に私の事思ってる?

私達の赤ちゃんの事思ってる?


最低な私だけど、
今は私達の赤ちゃんに
申し訳なくて…
命の尊さってやつを、
少しは理解してる私がいる。


『来ないんか?』

彼の優しい声。



行きたい。


せっかくの二人きりの時間、
彼のすぐ傍で暖かい腕に
包まれたい
って本気で思う。


もしかしたら、
私が「できない」って言ったら、
彼はしないかもしれない。


でも、なんだろう?


この違和感。


彼の事が
前と変わらず好きなのに……。








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