不思議トワエモア
「そっか、やっぱりね」
「木下さんは…その…噂を信じてなかったの…?」
「うーん?噂は基本信じない主義かな」
私がそう言うと、彼は「そっか」と今まで見た中で一番口端を上げて嬉しそうに微笑んだ。
それから彼と少し話しては沈黙、話しては沈黙。それを繰返す内に、いつの間にか空は赤色から闇色に染まっていた。
不思議と時間は感じなかった。
「あ、もうこんな時間か」
私が時計を見て呟くと、彼も「…ほんとだ」とぼそりと言う。
もう帰らないと…今日の夕飯何だろ、そんな事を思いながら席を立ち鞄を手に取る。
「じゃあ、私帰るね。コーヒーご馳走様でした」
そう言って部屋を出ようとした瞬間、彼の大きな声が私の足を止める。
「…あ、あのっ!」
うゎ!びっくりしたー…。
そんな大声出さなくても聞こえるのに。流石の私も驚くよ…。
振り返ると、彼は顔を下に向け立っていた。