不思議トワエモア
「おや?おや、おや、おや?君はのっぽ君ではないか!もしかしてもしかすると、私は逢瀬を邪魔しちゃったかな?」


 薫は不気味なほど満面の笑みをこちらに向け、面白がるようにバシバシと肩を叩く。

 馬鹿力です、薫さん。

 そんな私の苦しみを気付いていないのか、……いや、絶対に気付いていてやっているのだろう。

 何せ、彼女は面白い事大好き人間なのだから。そして、私と鹿島君の関係をどうにかしようとしているのが丸分かりだ。


「のっぽ…?」


 少々首を傾げ、疑問を口にした鹿島君。

 彼の言いたい事は重々分かる。

 見ず知らずの人間に勝手に変なあだ名を付けられたら、誰だって困惑するだろう。


「そう、君はのっぽ君だよ!」


 ところがどっこい。

 興奮状態の薫には鹿島君の疑問の意味が上手く通じなかったみたいだ。


「…のっぽ君…」

「そうそう。のっぽ君、のっぽ君。あははッ」


 痛い、痛過ぎるよ………。

 この二人で会話をさせてはいけない。何故か瞬時に悟ってしまった私は、さり気なくこの話に区切りをつける事にする。


「鹿島君、部室に行くんでしょ?時間は大丈夫?」


 これは母性本能か、それとも違うのか。

 薫の餌食になった鹿島君を守らなければ、と思ってしまった自分を何となくむず痒く感じた。
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