不思議トワエモア

「はい」

「…ありがとう」


 突如伸びてきた手に握られていたのは、誰がどう見ても買い替え時の古びたマグカップ。中には香気が漂う温かいコーヒーが入れてあった。

 ビーカーで水を温めたのもきっとこれの為。



 あぁ、さっき訊いてきたのは私に出す為だったんだ。

 なんか意外…。



 まずは一口、ゆっくりと飲んでみる。

 端の少し欠けた焦茶色のテーブルを挟んで向かいのソファーに腰を下ろした彼は、それを見ると満足そうに口角を上げて、自分もこれまた古びたマグカップに口をつけた。


 目が髪で隠れてるからよく分からないけど、多分私が飲んで喜んでるんだよね…。


 そんなことを思いながら、何気にこの空間に馴染んでいる自分に我ながら感心した。


 しばらくの間、静かな、でも苦痛ではない時間が続いた。


 そういえば何で私はここに呼ばれたの?


 ふと思い出した今最大の疑問が頭の中を過ぎった。コーヒーを飲ませるためにここに呼んだとは思えない──いや、有り得ない。
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