俺のココ、あいてるけど。
 
「ふぅー・・・・」


残り短くなった煙草を急ぐように吸って、灰皿の水の中にポチャンと落とす。

一服はおしまいだ。


「さて、戻るか」


誰に言うでもなくぽつりとつぶやき、バックヤードに続くドアノブに手をかけた。


すると───・・


ガチャッ。


俺が回すより少し先に、内側で誰かがノブを回した。

反射的に手を引っ込め、中から出てくる人を待つ。


「・・・・と、登坂さん・・・・あ、すみません。失礼します」


そこから出てきたのは長澤・・・・さっきまで裏で店長と俺が話していた本人だった。

長澤は俺がいたことにひどく驚いた様子で、逃げるようにして走り去っていく。


「・・・・」


俺はただ“お疲れ”と一言声をかけるのにものすごく戸惑った。

見て見ぬふりをしたらいいのか、呼び止めて話を聞いてやればいいのか、励ませばいいのか・・・・。

久しぶりに人の涙を見て、なぜか俺の胸は締めつけられた。





そう。

長澤は俺と鉢合わせしたとき泣いていた・・・・。
 

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