俺のココ、あいてるけど。
 
だけど───・・。


「待って、誠治!」


だけど、その声とともに俺の足は一瞬にして止められた。

背中に麻紀の体温と鼓動が同時に伝わってくる・・・・。


「ごめん・・・・。ちょっとだけでいいの。こうさせて・・・・」

「麻紀・・・・?」

「彼に“さよなら”って言える勇気、私にちょうだい・・・・」


背中に感じる鼓動はさらに早まり、体温がじんわりと移ってくる。

本当に一瞬のことで、何が起こったのか分からなかった。

それでも確かなことは、俺は麻紀の細い腕に抱きしめられていた、それだけだった。


「会って話を聞いてもらうだけでよかったの。でも会ったら誠治はあの頃のままで・・・・。私、私・・・・ごめん、誠治」

「・・・・」


麻紀の声は涙声だった。

頭では“離してくれ”と言わなければならないのは分かっていた。

俺には好きな人が───長澤がいて、彼女が傷つくところなんてこれっぽっちも見たくないんだ。









でも・・・・。

俺は麻紀を抱きしめてしまった。
 

< 324 / 483 >

この作品をシェア

pagetop