俺のココ、あいてるけど。
「じゃあ、適当に走るから、寄りたい店とか腹が減ったら言って」
「うん、分かった」
そうして車は走りだした。
カーステレオからは、最近モッサ君がハマっているというアーティストの歌が流れはじめる。
モッサ君曰く『哀愁のラップがたまんねー』・・・・らしい。
それを聞きながら窓の外に目をやると、流れる景色は濃いオレンジ色に染まっていた。
その中を、高校生のかわいらしいカップルや学生同士のグループ、子どもの手を引くお母さんなんかが楽しそうに歩いている。
映画が終わった時間が帰宅ラッシュに重なったこともあって、道は混雑していたけれど。
音楽と街の様子が思いのほかマッチしていて、飛び交うクラクションも不思議と耳に入らなかった。
「あ・・・・」
10分くらい走ったところで、前に小百合と行ったお店を見つけた。
あの頃は“登坂さんと行きたい”なんて思っていたけど、それも今では遠い夢の話。
「ねぇ、モッサ君!あのお店ね、夏に友だちと行ったの!すっごい美味しいんだよ〜。クリスマスに一緒に行こうよ!」