俺のココ、あいてるけど。
登坂さんにどんな過去があったとしても、こうして噂話を流されることはないと思う。
それに、今はあたしの指導係。
“守りたい”なんて表現はおかしいかもしれないけど、登坂さんのことを知らないのにそういうことを言ってほしくなかった。
あたしだって本当の登坂さんはどんな人かは知らない。
だけど、嫌だったんだ。
どうしても・・・・。
それからの午後の仕事は“言ってよかった”と思う気持ちと“言わなきゃよかった”と後悔する気持ちと・・・・。
両方の気持ちがせめぎ合って、妙に落ち着かなかった。
あのパートさんだけじゃなく、ほかのパートさんの視線もなんだか痛く感じた。
・・・・でも、負けたくない。
「インスタントでもなかなかうまかっただろ? 夜はついつい飲み過ぎるんだよな・・・・」
「はい。ごちそうさまでした」
ちょっとだけ表情を柔らかくして言った登坂さんに、あたしはこのとき初めて普通に笑い返すことができたんだ。
登坂さんがくれたコーヒーは、ビターな大人の味。
登坂さんらしいと思った。