俺のココ、あいてるけど。
「主人もね、あんたたちを心配してたのよ。口は悪いけど、あれでも励ましてるつもりなのよ」
黙々と大鍋を洗い続けるご主人に聞こえないよう、奥さんがこっそり教えてくれる。
ご主人は普段、あまりしゃべらない人なのだ。
いつか、麻紀が「ご主人、今日もご機嫌悪いんですか?」と奥さんに聞いたとき、教えてもらった。
そのご主人が、急に来なくなった俺たちを心配してくれて、励ましてもくれて・・・・。
言葉にならない感謝の思いが、胸の中を駆け巡っていった。
麻紀と2人、何度も何度も「また来ます」と約束して店を出る。
手を振って見送ってくれる奥さんと、相変わらず黙々と大鍋を洗い続けているご主人。
いつか、こんな夫婦になりたい。
心からそう思った。
「じゃあ、私こっちだから」
鼻をぐずつかせている麻紀は、そう言って右のほうを指差した。
俺は左だ、そっちに車を停めたパーキングがある。
「そうか。気をつけて帰れよ」
「誠治もね」
「おぅ」
これが本当の別れだ・・・・。