俺のココ、あいてるけど。
 
それでも、なんとか押しつけがましくコーヒーを買って手渡す。


「ほら、熱いから早く」


そんなのは口実だ。ただ単に受け取ってほしかっただけ。

コーヒーと俺を何度か見ると、長澤は遠慮がちに手を伸ばした。


「あ、ありがとうございました」

「別に。この前のおわび」


“別に”は余計だろう、と心の中で激しく突っ込みながらも、やっと本来の目的を果たす俺。

“おわび”・・・・素直に「泣かせて悪かった」と言えばいいものを。

無愛想が癖になってしまったのか何なのか、やっぱりこんな言い方でしか謝れなかった。





バックヤード戻り、自分の椅子に腰掛けるやいなや、今さらながらに心臓が跳ねる。


「やべぇ──・・」


コーヒーをおごるくらいでこんなに緊張するとは予想外だった。

いい歳をした大人が子どもじゃあるまいし・・・・。


「ふっ。俺はガキか」


ほかほかと湯気の立つコーヒーを飲みながら、ふいに苦笑いが込み上げた。

このときのコーヒーは、なんだかいつもと少し味が違った。
 

< 46 / 483 >

この作品をシェア

pagetop