不思議な家のアリス
「ガキの癖に、大人ぶってんなよ。泣きゃ良いんだよ、こういう時は。」
…大人達は皆口を揃えて『しっかりしなさいね』と言っていた。
私は"大人にならなきゃいけない"と思ったし、気を張ってまだ一度も泣いてない。
泣けなかった。
目頭が熱を帯びる。
でも…こんな見ず知らずのヤンキー兄ちゃんの前で泣くわけにいかない。
下唇を噛むが…堪えきれず涙が一筋頬を伝った。
それをきっかけにどんどん涙が溢れ出してきた。
まるで決壊したダムの様に。
「…っ…うぅっ…」
男は黙って抱き締めてくれて、余計に涙が溢れた。
…あぁ、人の体温ってこんなに落ち着くものだったんだ。
本当は泣きたかったのかもしれない。誰かに抱き締められながら。
でも天涯孤独になった私には、そんな人は一人も居なくて。
悲しみは留まることを知らない涙となって、私はまるで小さな子供みたいにいつまでも泣き続けた。
"パパはもう居ない"
その事実を痛感しながら。