愛が呼んだもの
「…。よく覚えてんなー。」

「今度は離れ離れになっちゃうのにさ、優紀ちゃんはオレのために泣いてはくれないんだね…。」

ウフフフフフフと洋樹が笑う。

「あ、ヤバイ、なんか前が霞んで見えないや。」

「うっわー。変な顔。」

こんな話がもう、2人ではできない。

洋樹はここを離れるときは、もうアタシは彼女じゃない。

なかなか会うことできないんだね、としみじみ思っていた。

「…優紀ちゃんはさ。」

洋樹が口を開く。

「高校に入ってから特に小説の方に一生懸命になっちゃって。オレは少しさびしかったよ…。」

「え、そーだっけ。」

「うん、一回雑誌でなんたら賞とってからは特に…。」

ほんと、よく覚えてるな。

6年間なんて、洋樹は一途だね。

あ、アタシもか。

「メールの返事も遅くなるし。」

「えー、だって洋樹いっつもメールくれるときのタイミング悪いんだもん。」

小説に集中してるときとか、寝る前とかー…。

「え、ちょっ。オレ空気の読めない男?オレタイミングの悪い男!?」

なんか、洋樹が言ってるけど、アタシはそれを無視。

「それにさ。洋樹だってアタシが力作のグラタンを写メで送ったらさー。」

【パケ代かかるからやめてください。】

「って、ちっさくない?人間としての器が。」

あ、アタシも結構覚えてんな。
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