鉄のココロ
1
目を覚ますと、買ったばかりのお気に入りの時計の針は午前八時をさしていた。
二階の部屋の窓から見える景色は、大きな桜の木がある見に覚えのない小さな公園。
僕には具体的な夢はなかったが、ただ「自分」から逃げ出したくて、両親に適当な理由をつけ、進学のためこの街に越してきたのだ。
僕の夢は、いつの日からかない。
頭の中は、自分の存在を証明するのにいつもいっぱいだからだ。
なぜ、この世に生まれたのか。
なぜ、神様は僕を創ったのか。
考えるだけ意味がないことぐらいは知っている。
でもふとした瞬間、頭の中は無意識に感じてしまっている。
―同性愛。
「きっとすぐに普通に戻るから」
悩んだってしょうがない。
そう自分に言い聞かせる度、僕の目の前の世界は見事に霞んで見えた。
越してきた新しいこの部屋で、はじめて僕は声を押し殺して泣けるだけ泣いた。