リスケ
みは捨てなかった。彼が借金を綺麗に清算して、真面目にコツコツと働き、私とやり直してくれることを。でも無駄だった。彼は、とことん追い詰められたみたい。人里離れた奥深い山間のダム。空梅雨で干上がってしまったそのダムの底から、三十年前に水底に沈んでしまった木造の小学校とともに真っ赤なフェラーリが姿を現わしたの。運転席に彼。助手席に銀座の若いホステスをともなって。しかも、彼の左手首と彼女の右手首には、しっかりと赤いロープが結ばれていた。お互いの左手薬指にはお揃いのシルバーの指輪をはめて。
私は、あの瞬間からようやく正気に戻れた気がする。赤いフェラーリの中で安らかに眠る、彼と彼女。暗いダムの湖底から引き揚げられる彼と彼女。安らかに眠っていた。私のお腹には、彼がこの世に遺していった悲しい新しい生命が宿ってた。
現実。リアル。紛れもない現実。受け止めるしかなかった。幻想が崩れ散った。

私は、実家に戻り、女手一人で行きていく道を拓こうとした。父親が営む不動産業界に迷わず飛込んだ。お腹の中の子供をいたわりながら。
瞬く間に十年が経ち、バブルの後遺症から不動産業界もようやく立ち直りかけた頃、私は大きな賭けに出た。三十億の借金を
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