太陽はアイスバーをくれた
「……」
どうして良いのか解らず結衣はただその男を眺めていた。
ちょうどバスは信号が赤になったので停車しているところだった。
哲太は結衣に気付きもしない。
ふと哲太がおもむろに携帯電話を取りだし画面を見たあとにキョロキョロと周りを見回した。
手をゆっくりと挙げた哲太のその目の先には、綺麗な女の人とその隣りに幼稚園くらいの女の子がいた。
三人は横に並び、傘を大中小とさして歩いてゆく。
「……そういうことか」
結衣は少し苦笑を漏らした。
笑えたのは口元だけで、心と眼は泣いていた。涙がぱたぱたと落ちた。
哲太さんにはとびきり綺麗なお嫁さんと子供がいたんだ。
あたし、失恋したんだ。
想いすら伝えることができなかった。
初夏の晴れ晴れとした気分はどこへ行ったのやら、結衣はその場を通り過ぎた一つの家族を進み始めたバスからただ身を乗り出して眺めていた。