ストロング・マン


ミーティング中はどうしてもそわそわしてしまい、内容が頭に入ってこなかった。
前回の失敗のお咎めがあるかと思っていたが、特にそんなことはなく、終始穏やかに過ぎていったことが、何よりも幸いだ。


「それでは、みなさんよろしくお願い致します。」

銀行のすごく威厳がある偉い方が挨拶をして席を立ったことでミーティングが終わった。


みんなで席を立ち、銀行の方に頭を下げながらお見送りした後、ミーティングルームにやっといつものような穏やかな雰囲気が帰ってきた。

私もふぅと小さく息をつき、肩の力を抜いた。
まあ私の場合、別の意味で肩に力が入っていたのだけれど。


チームのみんなとたわいもない話をしながら自分たちのフロアへ向かおうと歩いていると、



「郁。」


昔よく聞いていた低くてよく通る声が私を引き止めた。
後ろを振り返ってみると、



「しゅ、修也…!」


「よ、久しぶり。」


爽やかに片手を上げて私を見下ろす修也がいた。


「あれ、片山、高橋様と知り合い?」


近くにいた佐藤さんがものすごく興味深そうにこちらの様子を伺ってくる。
それもそうだ。お客様とこんなフランクに話している3年目社員などいないだろうから。



「そうです。高校の同級生で。
会ったのは高校ぶりだったので、すごく驚きました。」


「へぇ~。」


佐藤さんがあごに手をあてて、私たちの様子を見ている。にやけたいのを必死に抑えているのがバレバレだ。


「ちょっと、先に戻っていてください。
修也、そこの休憩室いこっか。」


興味津々な先輩方を追いやり、修也を休憩室まで連れて行った。




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