ストロング・マン
「ちょっと、帰ったんじゃなかったの?」
休憩室といっても私たちのデスクがあるフロアの奥に自動販売機とくつろげる椅子とテーブルがあり、パーティションで区切られているだけの簡素なものだから、周りに迷惑がかからないように一応の声のボリュームは抑えて修也に詰め寄る。
「久しぶりに会ったのにそれはなくね?」
ははっと笑いながら、私が手渡した缶コーヒーをぐいっと飲む。
修也とは高校2年のときに同じクラスになってから、気が合うということでよく親友の奈美と3人で一緒に過ごしていた。
高校時代サッカー部で、すごくモテていた。
というのも身長も高く、切れ長の目やすっと伸びた鼻筋、完璧なパーツが小さい顔の中に綺麗に詰まっているからで。
さらにこんなにイケメンなのに硬派で、高校時代彼女がいたという話を聞いたことがない。
おかげで、我こそはと修也を落とすためにいろんな女子が挑戦していったくらいだ。
社会人になった修也は昔よりも背が少し伸びてて、髪も日に焼けなくなったからか、落ち着いた黒髪になっていた。
肌の黒さもかなり落ち着いたけど自黒なのかやっぱり人よりも黒い肌をしている。
でもその黒に笑った時に見える白い歯のコントラストが綺麗だし、何よりも水色のワイシャツが映える。
昔よりもかなり大人っぽく、さらにかっこよく成長していた。
…こんなの、ずるい。こっちは夜勤明けでボロボロだってのに。
「まさか修也がうちのシステムを使用している銀行に勤めていたなんて。
ほんとにびっくりしちゃったよ。」
「お前、うっかり声出てたもんな。」
くっくっと楽しそうに肩を揺らす修也を力いっぱい睨みつける。
同級生にこんな失態をさらすことになるなんて。
「だっていきなり現れたら誰だってびっくりするよ!
修也みたいにポーカーフェイスが上手い人以外は。」
「いや、俺だってかなりびっくりしたんだけど?」
確かに修也も驚いた顔をしていたが、あれくらいの表情でとどめておけるのだ。
さすがはポーカーフェイスの達人。