ストロング・マン
尚は薄々感づいていたのに、何も言わずに私と一緒に居てくれたんだ。
なんて、優しい人なんだろう。こんなにも素敵な人を、私はずっと傷つけていたんだ。
「尚、謝らなくていいの。私が悪いんだから。
ずっと、傷つけてきてごめんなさい。尚は、どんな時でも優しかった。
それに気づくことが出来なかった・・・
ほんとに、ごめんっ」
別れるときに泣いたのなんて、今までで初めての出来事だった。
こんなときでさえ、尚の思いが真っすぐで。別れたいと言う私を責めるような言葉もなくて。
「俺も思ってたこと、不安だったこと、言い出せなかったからお互い様なんだよ。
もっと話し合う必要があったよね。
俺はさ、まだ郁が好きだよ。別れたくないって思ってる。
郁の再スタートの相手、俺じゃだめかな。
今度こそ、上手くいくと思うんだ。」
こんな私のことをここまで思ってくれる人、この先いるのかな。
この気持ちをもらえただけで、私は十分。
「尚、本当にありがとう。でも、私の気持ちは変わらないよ。
もしまた尚と付き合うことになっても、一度すごく傷つけちゃったから、私は罪悪感でいっぱいで上手く出来ないと思う。
だから、お願いします。」
どれくらい頭を下げていただろう。
しばらく経って、尚が「わかった」と嘆くのが聞こえた。