ストロング・マン
「ごめん、郁、最後に一回抱きしめていい?」
え?と顔を上げると同時に腕を引かれ、気づけば尚の腕の中にいた。
何度この腕に癒されたかな。
急に懐かしさがこみ上げ、緩んだ涙腺が再び決壊する。
「今日、覚悟してきたつもりだったんだけど、結構きついな。
もう少ししたら、郁のこと開放してあげられるから。ごめん。」
抱きしめられている間涙が止まらない私の頭を、尚はずっと撫でてくれていた。
しばらくして私が落ち着いてくると、そっと引き離された。
「最後に一ついい?
今まで別れるときにこんなに泣いてくれたの、俺が初めて?」
「・・・うん。こんなこと、初めてだよ。」
涙でぐちゃぐちゃな顔を隠しもせずに顔を上げて、尚の目をしっかりと見て答えた。
すると尚はいつものすごく嬉しそうな顔をして、
「そっか!なら、俺が居た意味もあるってことかな。
・・・今までありがとう、郁。幸せになるんだよ。」
「うん。尚こそ。本当にありがとう。」
最後はお互い笑顔で別れた。
先に戻っていいという尚の言葉に甘えて、家まで走って帰った。
そうでないとまた、泣いてしまいそうだったから。
私が泣くのは間違ってるって分かってる。辛いのは尚の方だから。
でも今日だけは許してほしい。今日泣いたら、明日から違う自分になってみせるから。