ストロング・マン
私はお酒をもらいに行く体制を取ったように見せて軽く修也の方へ身体を近づけた。
「修也、大人気だね。」
今度は私がニヤリと笑って見せ、その場をすっと離れる。いつもやられてばかりだから仕返しだ。
それにこのまま修也と居たら、数少ない女子社員を敵に回しかねない。
私たちエンジニアはやはり男性の数が圧倒的に多い。
女性も若手はそこそこいるのだが、残業や休日出勤も多いことから結婚を期に辞めてしまう人がほとんどなのだ。
だから中堅社員や役職に就いているエンジニアの女性の数はまだまだ少ないのが現状だ。
替わりのお酒をもらい、自分のチームのメンバーが多いところに戻る。
やっぱり気を使わない慣れ親しんだところは落ち着くし、とても楽だ。
それから私は打ち上げ終了までその場所に留まった。
「じゃあお疲れ様です。」
あらかじめ会場に荷物を持ってきておいたため、フロアに戻ることなく帰宅することが出来る。
チームの方々に挨拶をして会社を出た。
もうすぐそこまで夏が来ているようで、もやっとした空気が私を包んだ。
「おい、郁。」
私が会社を出てすぐ来たようで、後ろから修也が私の肩をポンと叩いた。
少し肩で息をしているところを見ると、急いで来たようだ。