ストロング・マン


一難去ったと思えば、また一難だ。
まあ冷やかしに耐えて、きちんと弁解すればいいだろうけど。
果たしてこの目の前の男はそれをやってくれたのか。めんどくさがってただ笑って誤魔化す、とか容易にあり得る。


「ちょっと、ちゃんと弁解はしてきたんでしょうね?」


ギロリと睨むように修也を見上げれば、修也はふいと顔をそらした。
あ、これは黒だ。こいつは人の職場で何をやらかしてくれたんだ。


「なんでちゃんと言ってくれないのよ!」


職場から最寄駅までの帰り道のため、一応声は落としたつもりだが、かなり力が入ってしまって落としきれなかったかもしれない。
怒りで全身黒いオーラ包まれたような私とはうって変わって、目の前のこいつは相変わらず飄々としていた。
まあ修也の場合、客先の社員とちょっとありますくらいにしかならないのだからそうかもしれない。


「そんな怒んなって。言わせておけばいいいじゃん。」


やっぱり立場が違うからだ。自分ばかり余裕でずるい。


「修也は客先でしかも終わりを迎えようとしているプロジェクトだからいいかもしれないけれど。
私は違うんだから。困るよ。」


ふんとそっぽを向いてずんずん前に進んでいく。漫画だったらドスドスと効果音が書かれていたに違いない。



「俺はそうなっても構わないよ。」


後ろから聞こえたとんでもない発言に思わず歩みを止めた。


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