ストロング・マン
「じゃあかんぱーい!」
「「かんぱーい」」
今日は私から奈美と修也を誘った飲み会の日。
前と同じように奈美の掛け声で飲みが始まった。
今日集まってもらったのは他でもない、私自身にあった出来事を話すためだ。
簡単に言ってしまえば彼氏と別れた、ただそれだけなのだが、私の場合は違う。
気持ちの面で大きな変化があったからだ。
それを高校時代から私を知り、きっと心配していてくれただろう2人に聞いて欲しかった。
「えっと、尚と別れました。」
そう報告すると奈美は「えー!」と声を上げて驚いた。無理もない、前回会った時は普通だと言っていたのだから。
修也は特に顔色を変えず、「そっか。」とだけ言った。
少し話していたからこうなることが分かっていたのかもしれない。
今までいかに自分が軽い気持ちで付き合ってきたか、そしてその度に心配をかけていたであろうことを伝えた。
これからは相手も自分も傷つけないために、変わりたいということも。
2人は私の話を余計な相槌もせず、ひたすらに真剣に聞いてくれた。
「2人とも聞いてくれてありがとう。」
そう言って微笑むと、真正面に座っていた奈美が自分の席を立って私の席の方に回ってきた。
「ちょっと、そっちにずれてくれる?」
「え?いいけど。」
こっち側に座っていたのは私だけだったので詰める分には問題ないんだけど、どうして?
疑問を持ちながらもずれて奈美が座れるスペースを空けると、いきなり奈美が抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっと、奈美!」
慌てふためく私に対して、奈美は私の首に回している手にさらに力を込める。
「本当によかった・・・」
力とは対照的に弱々しい奈美の声が耳元で聞こえた。
その声と言葉で、本当に心配をかけていたんだと知り、涙腺が少し緩む。
今までのお礼にしては足りないが、私も奈美の首に手を回し、精一杯の思いを込めた。