ストロング・マン



お互いの腕を解放し顔を見てみると、2人とも半泣き状態で。
それがなんだかおかしくて、お互い顔を見てぷっと噴き出した。

ひとしきり笑いがおさまった頃、奈美が自分の目尻に溜まった涙を人差し指でふき取りながら口を開いた。


「いやー笑ったわ。
でも、本当によかった。実は言えてなかったけど、ずっと心配していたの。
親友だからこそちゃんと指摘するべきだろうって何度思ったか。
でも、この人こそ、この人ならきっと郁を変えてくれるだろうって思えて指摘出来なくて。それに郁が付き合った人を否定したくなくてズルズル言わないままになっちゃった。ごめんね。」


奈美がこんな風に思ってくれていたなんて。「そんなことない」と伝えたくて必死に首を横に振る。
申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが入り交じって更に涙腺が緩んできた。


「私が結婚するって言ったら、郁も結婚を前提とした付き合いとか、意識するかなあって考えてたりしたんだ。
郁は私の結婚から考えるようになったの?」


奈美にそう問われて思い起こせば、斜め前に座る修也の顔が思い浮かんだ。
そうか、私は修也の言葉がきっかけでこうなれたのか。


「んーまあそんなとこかな。」


修也のおかげ、なんて絶対に言えない。奈美もいるこの前で言うのが恥ずかしくて、つい誤魔化してしまった。
きっと、修也はそれさえも気づいているんだろうけど。だって斜め前からすごい視線を感じるもの。


「そっか。まあきっかけはなんであれ、本当にいい話聞けて嬉しいわ。」


「俺も。よかったな。」


2人がそう言って微笑むので、悩んで決めてよかったなあと心の底から思えた。




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