ストロング・マン


私は和風たらこパスタ、修也はアラビアータを注文し、2人がけの席で料理が来るのを待っていた。
なんだか手持無沙汰でとりあえず水の入ったグラスを持ってちびちびと飲んでいた。


今かもしれない。


そう思って意を決して顔を上げた。


「修也、あのさ、」


ドン


「あ、すみませーん。」


「郁、大丈夫か?俺のおしぼりも使っていいから。」


話を切り出そうとした途端、私の後ろの席に座ろうとした人が私の座っていた椅子にぶつかってしまい、持っていたグラスから水がこぼれてテーブルに水たまりをつくってしまっていた。
人がせっかく決めようと思っていたのに。しかもちゃんと謝りもしないなんて。

テーブルを拭きつつ、後ろにじとっと目をやると私にぶつかった人の連れの人に怪訝な顔で見られた。そんな顔したのはこっちなんですけど。ていうかしてますけど。
私のやり取りを見ていた修也はぷっと吹き出し、


「郁、その辺にしとけって。」


宥め込まれて一発触発の危機は免れた。私が言う機会もなくなったけど。





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