ストロング・マン
「修也は実は勉強も出来たよね。」
「実は?事実だろ。お前は努力家タイプっつうか、意外と真面目だよな。」
「そうそう、そうなの。あたしは天才肌タイプじゃないから、テストの時はちゃんと頑張ったわよ。」
お互い褒めているんだかけなしているんだか分からないような言い合いを繰り返す。
こんなくだらないことを言っても大丈夫という安心感があるのはすごく心地がいい。
「郁ってさ、実は真面目すぎるんじゃない?って前から思ってた。」
「そう、かな?」
「・・・今まで付き合ってた人のこととか、郁は自分のこと最低だって言うけど、二股とかしたわけでもないし。もっと悪いことしてる人なんてごまんといると思うよ。そんなにちゃんとしなきゃ、みたいになる必要、ないと思う。」
真剣な瞳を私に向けて、温かい言葉をかけてくれる修也。この時、初めて昔の自分のこと、自分の奥底にある感情に目を向けることが出来た。
私は長女でお母さんが身体が弱い人だったから家事とかも率先してやっていたし、お母さんに「いい子だね」って言われるのが好きで、その言葉を聞きたくていろんなことを頑張ってた。
それに反してお父さんはあまり人に胸を張って話せるような人じゃなくて。ギャンブル好きで、医療費とか何かとお金がかかるのにあまり仕事も行かないとかもざらだった。
そんなお父さんもお母さんの死をきっかけに変わったみたいで、今では父親らしい言動が増えてきている。
だけどあたしは、寂しくて。
今まで私の頑張りどころだったお母さんがいなくなって、心にぽっかりと穴が空いたみたいだった。
その頃だ。私に告白してくれた人がいて、しかもちょうど真面目そうな人で。
これならお母さんの言う通りに出来るかもって思ったんだ。