バレンタインデーの憂鬱
バレンタインの前にだけ、男子に優しくされたりする。
「紗也(サヤ)、知ってる?」
『ん?』
「今年は逆チョコが流行ってるんだって!」
親友である優花(ユウカ)が、あたしにそう言ったのが2月4日。
バレンタインデーまで、ちょうど10日。
休み時間、チョコレートを使うお菓子のレシピ本を持ってあたしの席に来た彼女は、真っ先にそう言ったのだった。
『逆チョコって、何?』
「男性が女性にチョコレートを渡すこと」
『それ、ホワイトデーじゃん』
「バレンタインデーにやるの!」
『じゃあホワイトデーの必要性、なくなるんじゃない?』
「……紗也って、変なとこ冷めてるよね」
だってなんか、ホワイトデーが可哀想じゃん。ただでさえ、影が薄いイベントだっていうのに!
「紗也、今年はどうするの?」
『どうするのって言ったって…』
付き合ってた彼氏とは、2週間前にサヨナラしちゃったし…
今、好きな人なんていないし。
『あげる相手もいないのに、どうもこうもないよ…』
「えー!せっかく一緒に作ろうと思ってたのにー…」
『優花、誰かにあげるの?』
「えっ?」
急に目を泳がす優花。
………図星だな。
『誰?』
「え、何?」
『しらばっくれんじゃない!吐けぇ!』
「と!隣のクラスの……神田(カンダ)くん…」
隣のクラスの神田……隣のクラスの神田……
『ごめん、わっかんない』
「吐かせといて何それ!?」
顔を真っ赤にして怒る優花だけど、
『だって、人の顔と名前、覚えるの苦手だし…隣のクラスとか、無理だもん』
しょうがないでしょ?接点が合同授業しかないんだから!
………合同授業があるなら覚えとけよって話か。ごめん、優花。