バレンタインデーの憂鬱
『そっか』
あまりにも真剣だったから、なんかそれ以上聞けなくて。
野次馬根性満載のあたしとしては、いろいろ聞き出したかったのが本音なんだけど。
「そいつがさ、とてつもなく鈍感なの」
『鈍感?』
「結構分かりやすく接してんだけど、これっぽっちも気づかねぇ」
彰の恋愛事情、聞くの初めてかも。いつもあたしばっか語るから…
『へぇ…あんたも苦労してんだねぇ?』
「誰のせいだと思ってんの?」
『え?その鈍感な子のせいでしょ?』
「……まぁ、そうだけど」
突然口ごもったあげく、
「はあ…」
と、大きなため息をついた。
『何よ?』
「…別に」
ソファーから立ち上がると、こっちに向かって歩いてきた。
「おばさんは?」
『仕事。パパも遅いから、今日はあたしが晩ごはん係』
「へぇ。何作んの?」
『クリームシチュー』
あ、そう言えば。
『あんた好きだったよね?』
「…あぁ、まあ」
『味見、してくれる?』
食器棚から小皿を出してきて、一口分盛って、彰に渡した。
パクッと口に運ぶ彰。
『どう?』
「…ん。うまい」
おぉ!彰の口からうまいって出た!
『あー、よかった♪』
「……なぁ」
『ん?』
「バレンタイン、誰かにやんの?」
『え?だからご近所様に…』
「それ以外で」
『それ以外?あとは…友チョコくらいだよ。今年は本命いないし』
あぁ、言ってて切なくなってきた……
『あ。あと、優花と一緒にクラスの男子に義理チョコ配ろっかって。それだけ』