バレンタインデーの憂鬱
「ちょっといい?」
放課後。先生に呼ばれた優花を教室で待っていると、いきなり後ろから声をかけられた。
『何?』
そこにいたのは、見たことはあるんだけど……名前がわかんない。
同じクラスの人はさすがに覚えてるから違うし。でも顔を記憶してるんだから、全く接点がないわけじゃない。となると……合同授業で同じ。だから隣のクラスで、かつサッカー部。
顔とジャージを見てそこまで推測出来た自分に、拍手。探偵とか向いてるかも、なんて思ってみる。
「よく…中野(ナカノ)さんと一緒にいるよね?」
中野──優花の名字だ。
『うん。優花に用事?なら──』
「そうじゃなくて!……あの、中野さんて、好きな人いたりすんのかな?」
『え?』
あ、優花のこと好きなのね?残念、今は神田くんしか見えてないのよ、あの子。
言ってたもん、神田くん意外ジャガイモに見えるって。
キミ、爽やかなスポーツマンって感じでカッコいいけど、優花にしちゃあジャガイモなんだよ。ごめんね?
『いるって言ってたよ?』
「そっかぁ…残念」
『…諦めるの?』
「んー…このままじゃ消化不良になるし。フラれてから諦めるよ。今年は逆チョコが流行ってるしね」
『そっか』
うん、外見じゃなくて中身もカッコいい。優花、もったいないことしたな……神田くんがどれほどの人か知らないけど、あたしなら潔くてサッパリしてる彼を選ぶね。
「じゃあ、ありがと」
『うん』
彼はくるりと背を向けた。
あ、背中に名前載ってるじゃん。
KANDA……かんだ…神田!?え、神田!?キミが神田くんなの!?
ごめん、ジャガイモじゃないよ!キミ、唯一の人間だよ!!
あたしがそれを言葉にする前に、彼は教室を出ていった。