バレンタインデーの憂鬱
送り主が誰だかわからない贈り物は触らない方がいい。
ドアに手をかけると、
ガチャンッ
閉まっていた。
『おばさん、いないの?』
「あー、そういや温泉旅行行くって言ってたかな」
思い出したかのように呟いた。
温泉旅行かぁ…あたしも癒されたい…
『鍵は?』
「カバン」
チョコでふさがった腕に、学校指定のボストンが握られていた。
あ、懐かしい。あたしもこれ持ってるー!
同じ中学の先輩だったんだから当たり前なんだけど。
チョコレートに埋まったカバンを引っ張り出し、中から鍵を取り出して穴にさし、回した。
カチャリ、と音がして、もう一度ドアに手をかけると、今度はちゃんと開いた。
「カバン持ってきて」
『おっけー。お邪魔しまーす』
彰ん家入んの、超久しぶり。ちっちゃい時はよく上がり込んでたんだけどねー。
思い出に浸りながら、彰の後ろについていった。