バレンタインデーの憂鬱



かつて、これほど早くオレンジジュースを一気飲みしたことはあっただろうか。


いや、絶対ない。


それほどのスピードで、オレンジジュースを胃に流し込んだ。


口の中に広がった、意味のわからない物体と共に。



「…大丈夫?」

『あたし、死ぬかも』



飲み込んじゃったもん。



『なんなの、これ!見かけは美味しそうなブラウニーなのに!実際は人間の食べ物じゃないよ!?』



舌が焼けるように痛い。これ、塩酸でも混ぜて焼いた?



「あー…俺、結構恨まれてるらしいからな」

『女の子に?何したのよ?』



少し考えるような間を取ったあと、



「告白断った…から?」



と、首をかしげた。



『それでここまでする!?』



彰には好きな人がいるんだから、しょうがないでしょ!フラれたからってこんな得体の知れないモノ作ることないじゃない!



「なんでお前はピンポイントでそれを選んだんだよ?」



彰はブラウニーを小箱ごとゴミ箱に放り込んだ。


もったいないけど、命が惜しいからそうするしかないよね……



『知らないよっ!インスピレーション、感じたんだもん!』

「直感でアタリ引いたんだ?」

『ハズレだよッ!』



怒るあたしを見て、笑う彰。


普段はあんまり笑わないのに、ホントに楽しいときは無邪気に笑うもんだから、怒るに怒れない。


あたし、彰の笑顔好きなんだよね。





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