バレンタインデーの憂鬱
「…なんなんだよ」
『いやー…結構がっしりしてるなと思って』
「だから?なんでこんなことすんだよ」
“こんなこと”
ただ、どんなもんかなぁと腰に抱きついてみただけなんだけど……
…よく考えたら、さすがにマズイよねぇ?中3の男子に抱きつくのは。
あたしの中で彰は弟っていうイメージしかなかったんだけど……彰、好きな人いるみたいだし…ってかあれ?彼女は?いたんじゃなかったっけ?
いろんなことを考えたけど…とりあえずこのままは彰が困るよね。
『ごめんごめん。ちょっとした…実験?』
「実験、ねぇ」
あたしが離れようとすると、
『…彰?』
あたしの背中に彰の腕が回って、離れられなかった。
これじゃあたしが一方的に【抱きつく】じゃなくて、彰と【抱き合う】形になっちゃってるよ?
「実験ごときでこんなことされちゃあ、俺がもたないんだけど」
『え?』
次の瞬間、あたしの足はフローリングから離れていた。
あたしが彰に抱き上げられているというのに気づくのに1秒。
それがお姫様だっこだということに気づくのにもう2秒。
彰の表情が怒っていることに気づいたときにはリビングを出ていて、
連れてこられたのが彰の部屋だってことに気づいたときには、ベッドの上に下ろされていた。