バレンタインデーの憂鬱
「それとも俺は完全に対象外?」
だからその瞳、やめてって…
さっきまで泳いでた目も、彰に捉えられて、今度はそらせなくなった。
そんなはずないのに、吸い込まれそうな錯覚をおぼえる。
『彰……』
自分でもビックリするくらい、今世紀最大の突然変異じゃないかってくらい。甘い声が、勝手に名前を呼んでいた。
「…んな声出してんじゃねぇよ」
ギシリ、とベッドのスプリングが軋んで、彰の顔が近づく。
久しぶりにこんな間近で顔を見たけど、いつの間にこんなにかっこよくなってたんだろう。
そんなことを考えながら、目を閉じた。
2人の唇が重なる、1センチ手前。
『ぅあ!』
空気をぶち壊すような奇声を発したのは、他でもなくこのあたしで。
「……………何」
目の前に、ものすごーく不機嫌な彰の顔。
でも、今のあたしにそれに構ってる暇なんてない。
「…お前、ほんと焦らすの好きだな。やっぱSだろ」
『そそそ、そうじゃなくて…』
「何?…ってか、暑い?」
いや、寒い。今2月だし…
でもあたしの額にはうっすらと汗が滲んでいた。
『お』
「お?」
『お腹いたーいっ!!』