バレンタインデーの憂鬱



「お前ほんと、見てて飽きねーわ」



そう言って笑うと、



「じゃ、今度こそ帰る。また来るから」



と、立ち上がった。



『帰っちゃうの?』



ポロリと出てきた言葉。さっきも思ったけど、なんか…そばにいてほしい、かも。


彰って、無口な方なのに存在感があって安心出来る。


だから帰られちゃうと、寂しいかな。



「…だから自覚持てっつってんじゃん」



彰は袖で口を押さえると、モゴモゴした声で、



「限界、けっこー近いかも」



と、呟いた。


えぇ!?それは困るっ……で、でも!今って受験シーズンでしょ?彰だって、忙しいはず…



「あ、そうだ。報告」

『え?』

「俺、紗也と同じ高校に推薦で受かったから」

『…えぇ!?』

「春からそこ通う」



こっ、後輩ですか!?



「じゃ、そういうことで」



そう言って、病室を出ていった。



『…どうしよ。頭破裂しそう……』



弟だと思ってた幼なじみからの告白、春から後輩、食中毒で入院……1日にいろんなことありすぎだよぉ…



『…ま、なんとかなるか!』



あたしは、得意の楽観的思考で、深く考えるのはやめた。


だって考えたところで、何かが変わるわけじゃないし。


たぶん、大丈夫!



かるーく考えてたけど、それが全然軽くなかったってことと、彰を見ると胸の鼓動が速くなることに、あたしが気づくのは……また別のお話で。




fin.




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