バレンタインデーの憂鬱
『あ!』
「げっ。」
家の前でお向かいさんの彰(アキラ)に遭遇。
っていうか…
『げっ。って何よぉ!』
「出来ることなら会いたくなかったなぁ、と」
あたしとコイツは世間一般でいう、【幼なじみ】。かといって、色恋沙汰に発展するかといえば、現実は漫画ほどうまくできてなくて。
『年下のくせにナマイキ』
「1歳しか変わんねぇだろ、チビ」
『あんたがデカイだけ!ってか実際、今何センチ?』
「最近測ってないけど…最後に測ったときは175、だったかな?」
『中3の分際で成長しすぎだあっ!』
ケンカ友達がいいとこ。確か彰、彼女いたし。
「買い物でも行ってた?」
あたしが持っているデパートの袋に目線を移す彰。
『あぁ、バレンタインの買い出しー』
「フラれたのに?」
『うるさーいっ!』
弟的役割をも果たしている彼に、恋が終わると愚痴りに行くのがあたしの習性。
『今年はあげる相手もいないから、ご近所様にあげようかなー?と』
「ふーん。唯一の取り柄の活用チャンスだもんな」
『一言余計だっつの!』
「俺のは?」
『は?』
「俺にはくれないの?」
あぁ、こうして見ると、彰ってカッコいいんだなぁ。ちっちゃいときは可愛かったのに。成長ってすごい。
全然関係ないことが頭に浮かんだのは…
『…ねぇ、近くない?』
この距離のせいだと思う。
あたしと彰の顔の距離、30センチ。
「で?くれるの?くれないの?」
『あげるよ?あんた、バリバリご近所様に分類されるじゃん』
「ご近所様、ねぇ」
そう言って顔を離す。
「ま、いっか。“今年は”それで」
なんとなく引っかかるような言い方をしてから、
「じゃあな」
と、家に入ってしまった。
なんなんだ?いったい…