バレンタインデーの憂鬱
買ってきたのはいいんだけど。
『あと10日もあるじゃん』
優花ってば張り切りすぎだし。
プルル…
材料を冷蔵庫に詰め終わったとき。タイミングよく、あたしの携帯が着信を知らせた。
『もしもし?』
「あたしー!」
相手はついさっき別れた優花で。
『どした?』
「行く!今から紗也ん家!」
『……なんで?』
「今すごく嫌そうな顔してるでしょ」
『えへ?』
優花にしては珍しく、あたしの図星をついた。そんなに声に出てたかなー?
「お菓子作り教えてよー!紗也得意でしょ?」
あぁ、そのために10日も前から準備を…
『わかった。材料持ってあたしん家おいで?』
ピーンポーン──…
あたしが言ったのと、玄関のチャイムが鳴り響いたのは同時だった。
『………。』
確認しなくてもわかる。優花はそういうヤツなの。
携帯を閉じて玄関に向かう。
「やっほ♪」
そこには、さっき別れたときと何一つ変わっていない優花の姿……と、
『…巻き込んでごめんね?』
「だったら帰らせろ」
同じく、さっきと何一つ変わっていない彰の姿。
「ダメだよ!大事な試食係!」
『彰、胃薬は?』
「持ってきた」
『えらい』
「そこまでひどくないもん!」
『「………。」』
「無言の抵抗やめて!」
ぎゃあぎゃあ喚く優花と、心底迷惑そうな彰を家にあげた。