バレンタインデーの憂鬱



『そのまま来ればよかったのに』



あたしは隣でチョコレートを刻む優花に、一番の疑問をぶつけた。



「ホントは明日からにしようと思ったんだよー?」



頼むのは決定事項だったんだ?



「帰りに神田くんに会ってねっ♪」



あぁ、刺激されたんだね。


そのあと、散々神田くんについて語られた。


神田くんがどんな人か知ってたらそれなりに楽しいだろうけど。


あたし、顔すらわかんないんだから!


顔も知らない相手の自慢話されても、楽しめないっつの!


湯せんでチョコレートを溶かしている優花に、



『で?何を作るの?』



と、決まってるものだと訊ねると、



「え?何作るの?」



同じことを聞き返された。



『決めてないの!?』

「決めてくれないの!?」



な、なんなんだコイツ…



「あたし、めっちゃ不器用!」

『知ってる』

「そんなあたしでも簡単に、失敗せず、かつ美味しくできちゃう!」

『……モノを、教えろと?』

「さっすが紗也!話がわかるねぇ〜」

『はぁ…』



小さなため息をついた。


そう、優花はそんなヤツ。


あたし、よく愛想尽かさずにここまで来たね……自分の我慢強さに拍手だよ……





< 6 / 34 >

この作品をシェア

pagetop