バレンタインデーの憂鬱
『そのまま来ればよかったのに』
あたしは隣でチョコレートを刻む優花に、一番の疑問をぶつけた。
「ホントは明日からにしようと思ったんだよー?」
頼むのは決定事項だったんだ?
「帰りに神田くんに会ってねっ♪」
あぁ、刺激されたんだね。
そのあと、散々神田くんについて語られた。
神田くんがどんな人か知ってたらそれなりに楽しいだろうけど。
あたし、顔すらわかんないんだから!
顔も知らない相手の自慢話されても、楽しめないっつの!
湯せんでチョコレートを溶かしている優花に、
『で?何を作るの?』
と、決まってるものだと訊ねると、
「え?何作るの?」
同じことを聞き返された。
『決めてないの!?』
「決めてくれないの!?」
な、なんなんだコイツ…
「あたし、めっちゃ不器用!」
『知ってる』
「そんなあたしでも簡単に、失敗せず、かつ美味しくできちゃう!」
『……モノを、教えろと?』
「さっすが紗也!話がわかるねぇ〜」
『はぁ…』
小さなため息をついた。
そう、優花はそんなヤツ。
あたし、よく愛想尽かさずにここまで来たね……自分の我慢強さに拍手だよ……