キス
そんなはずはない。
千弥子はそう思いながらトイレを出た。
「?」
階段を上がった先に誰かが居る。
話し声が聞こえる。
千弥子はあまり気に留めず階段を登った。
「キスだけの関係は嫌なんだ?」
「何それ、いつもキスしかしないくせに。私達そういう関係なんだ?」
ああ、そうか。
あと一歩で階段を登り切るところで、千弥子は足を止めてそう思った。
それは、晶悟と夏美の声だった。
見たくない現実から逃げるように、千弥子はキスをする二人の方を一度も見ず、階段をあとにした。
「あ」
「!、千弥子っ」
「見られたのかな」
「……」
話しかける夏美の声は届いているのかいないのか、それから晶悟は黙って千弥子の背中を見つめた。