キス
ああ、また浮気をしている。
志田千弥子はそう思った。
女を何だと思っているのか、万年浮気性の住吉晶悟は間違いなく千弥子の恋人である。
千弥子は、幾度となく浮気を繰り返す晶悟を呆れ果てた目で見るようになった。
しかし、別れるつもりはないのだ。
彼女はそれなりに晶悟を愛している。
「なあチャコ、これ食おう」
普段千弥子は周りから「チャコ」という愛称で呼ばれている。
晶悟は普段、千弥子の事を「チャコ」とは呼ばないが機嫌の良い時やふざけた時には「チャコ」と呼ぶ。
猫のような柔らかい長めの髪の毛から覗くその目は程よく垂れ気味で、眉毛は割に大きな鈍角を描いている。
この風貌は晶悟だ。
「またあんたは。今日は誰からもらってきたの」
「えっと、一年生のアヤちゃん」
「良かったね」
誰よ、そのアヤちゃんって子は。
あんた何様なの。
あたしの彼氏じゃあないの。
千弥子はいつものように思った。
千弥子はこんな事態に慣れてしまった。