キス
 

早く、早くあの最後のキスの余韻から抜け出さなければ、千弥子は常にそう思っていた。
 

 
「志田?」
 

「……上野君」
 

 
ある日、千弥子が本屋で再会したのは高校の時に同じクラスだった上野拓真だった。
 

 
「久し振りだね。さっきからフラフラしているから、どんな子だろうと思って覗いてみたら」
 

「本当に久し振り、上野君も一人?」
 

「うん、時々こうして一人でフラフラするんだよね」
 

 
千弥子はとても穏やかな気持ちだ。
何度か晶悟を妬かせようとして、千弥子が頻繁に話し掛けていた男相手がこの拓真だった。
 

洒落た髪型に似合うその私服姿は、少しだけ千弥子の胸をときめかせていた。
 

ああ、晶悟。
わたし、どうしようか。
 

 
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