キス
 

「橘さんって」
 

「うん?」
 

「どの辺に住んでるんですか?」
 

 
ぽつりと呟いたのは晶悟だった。
麗奈は、晶悟に名前を呼ばれる度に胸の鼓動を高鳴らせて振り向いた。
それから麗奈は、「私はね」と嬉しそうに話し始める。
 

晶悟もそれは嫌という程解っていた。
 

 
「実家はもっと遠いから、そこで一人暮らしなの」
 

「へえ、案外近いですね」
 

「うん。だから通勤に困らない」
 

「だからチャリなんだ」
 

 
麗奈がくすくすと笑っている。
いつの間にか一緒になって微笑んでいる晶悟がいた。晶悟自身も、もちろんそれに気付いていた。
 

 
< 21 / 26 >

この作品をシェア

pagetop