キス
「ちょっと話しよっか」
そう言い出した拓真に、千弥子は大きく頷いてから共に本屋を出た。
拓真の頬が紅潮していたことに、千弥子は気が付いていなかった。
自動販売機で温かい缶のミルクティーを拓真が買った。それを迷いなく拓真は千弥子に手渡す。
それから再び自動販売機に小銭を投入し、拓真自身は缶コーヒーを買った。
「住吉とは……、もう別れたんだよね」
「ああ、……うん」
千弥子の胸が、ギシリ、と音を立てて軋んだ。
ああ、駄目だ。やはりあたしはまだ晶悟のことを忘れられない。
「ごめんな。こんな話を今頃引っ張り出したりなんかして」
「ううん、平気」
「住吉と付き合っていて、それでも志田が俺には話し掛けてきてくれるのが嬉しくてさ」
嬉しくて、と拓真は続けた。