キス
 

「だからね、志田が住吉をフったっていう噂を聞いた時、正直喜んだよ」
 

「……」
 

「本当に今更なんだけど」
 

 
拓真は千弥子に苦笑してみせた。
千弥子は穏やかそうに微笑んでいた。
 

 
「良いね」
 

「ん、何が」
 

 
ふと眼を伏せて呟いた千弥子に、拓真は不思議そうに目配せをした。
千弥子はゆっくりと眼を開く。
 

 
「上野君のこと」
 

「俺が、良いの?」
 

「ファーストキスの意味、知ってる?」
 

 
千弥子の突飛な言動の数々についていくことができない拓真は、首を傾げていた。
 

千弥子は背伸びをし、まつげとまつげとをくっつけて、拓真とファーストキスをした。
 

二人のファーストキスだった。
 

 
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