キス
 

「住吉君、なんだか狡い」
 

「狡い?」
 

「一応私が年上なのに」
 

「んー、そんな風に感じないからな」
 

「もう、そのまま敬語も止めて良いよ」
 

 
溜め息を吐くふりをするように、麗奈は上がる口角を必死に抑制した。
晶悟はくすくすと笑っている。
 

千弥子のことを忘れることはできない。
それはできないけど、過去にすることはできそうだよ。
不器用で可愛らしい君は、もう俺を忘れてしまっているかもしれないな。
 

 
「俺ね、高校の頃付き合っていた彼女に酷いことばかりしてきたんです」
 

「……」
 

「できることならば会いたいし、抱き締めたいし、もう一度頭を下げて恋人同士になるのが夢なの」
 

 
麗奈は黙ったまま聞いていた。
晶悟の本音を、弱音を受け入れようと、ただそれを聞いていた。
 

晶悟は困ったように笑っては振り返る。
 

 
「ファーストキスの意味、知ってる?」
 

 
不思議そうにする麗奈に、晶悟はとびきり上等のキスをした。
 

君となら恋ができる。かも。
 

二人のファーストキスだった。
 

 
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