キス
果たされることがなかった千弥子と晶悟のキスは、運命だった。
あの日、確かに二人は煙草と涙の味がするキスを、ラストキスをしたのだ。
二人が付き合い始めた頃、晶悟は千弥子にこんなことを話した。
「チャコー」
「何、どうしたの?」
「ファーストキスの意味、知ってる?」
「ファーストキスって自分が初めてするキスのことでしょ」
「甘いな、千弥子」
「何それ、意地悪い顔ー」
「恋人同士が、初めてお互いにキスすることだよ」
「……ふうん」
「だから、俺も千弥子のファーストキスをいただけるの」
晶悟はいつものように、鈍角を描く細い眉の下に垂れた眼を細くさせ、茶色いねこっ毛をフワフワと揺らしていた。
二人のファーストキスだった。
2007.10.19